貝原益軒の『養生訓』から知る健康法 (1)
貝原益軒の『養生訓』
皆さんは、貝原益軒という儒学者が著した『養生訓』という本をご存知でしょうか?
江戸時代に書かれた『養生訓』には、現代人にも通じる身体の健康維持増進の方法が書かれています。
江戸時代の健康法なんて古臭いと思われるかもしれませんが、これをお読みいただけばそうではなく、現在、数多ある身体に関する健康法はこの貝原益軒の『養生訓』から生まれたといっても言い過ぎではないかもしれないと感じられることでしょう。
『養生訓』は説得力が違う
「人の命は、もとより天から受けた生まれつきのものであるが、養生をよくすれば長命となり、不摂生であれば短命となる。長命か短命かは、われわれの心次第である。健康で長命に生まれついた人でも、養生をしなければ早世するし、生まれつき虚弱で短命にみえる人でも、保養ひとつで長生きできる」
(『養生訓』巻一・七条 ※『「日本人の名著」を読む』著・岬龍一郎を参考、抜粋掲載)
この言葉は、江戸時代前期に今の「健康本」といわれるジャンルの先駆けとして江戸の庶民たちから熱烈に支持された『養生訓』の著者・貝原益軒(かいばら えきけん)が、その本論の中で語っている一文です。
養生という言葉をものの辞書で調べると、「節制すること、衛生を守り健康の増進に心がけること、病気を治すようにに努めること」といった意味となります。
要するに貝原益軒は、「長生きしたければ節制(養生)をしないとダメだ」「欲望の赴くままに行動してはいけない」といっているのですね。
詳しくは後述しますが、貝原益軒は『養生訓』のなかで食事の量や日々の節制にとどまらず、夫婦の営みの回数や大小の排泄時の作法など、生活全般にわたる『養生訓』、
つまり節制から身体の健康は始まると述べています。そして、貝原益軒がもっともこの『養生訓』で述べたかったのが「長生きこそ人生最大の幸福である」ということでした。ただし、その人生最大の幸福を得られる人、長生きできる人間というのは、すべて「本人の心がけ次第である」とも言うのです。
どういうことなのでしょうか。
本人の心がけとは?
例えば、現代人であれば、食事は満腹になるまで食べずに「腹八分目」、塩分を過剰に摂取しないよに「味は薄め」、「大酒は飲むな」といったことは自分の健康を管理し、維持増進をはかるためには知っていて当然ですし、守って当たり前です。いや、知っていてもなかなか実践するのは難しいと思うこともしばしばです。
この誰もが知っている「腹八分目」や「味は薄め」「大酒を飲むな」という身体健康を維持増進する基礎の基礎を書籍にまとめ、多くの人々に伝えた第一人者が何を隠そうこの貝原益軒だったのです。
これこそ『養生訓』が「健康本」の先駆けといわれる理由なのです。
『養生訓』は、1712年(正徳2年)に貝原益軒が83歳のときに書かれましたが、それから300年以上たった今でも人間の身体の健康を維持増進するための大前提は変わっていないということがいえます。もっといえば、貝原益軒の説いた健康法は300年の時を経ても色褪せず現代に生きる私たちの身体にも通用する教えだったのです。
貝原益軒の生涯について詳しくは後述しますが、彼は84歳で没します。
(余談ですが、貝原益軒より長生きした江戸時代の有名人に、葛飾北斎90歳、杉田玄白85歳がいます)
日本人の平均寿命
現在、2017年3月1日付で、厚生労働省が公表した日本人の平均寿命によれば、男性が80.75歳、女性は86.99歳です。これは過去最高を更新し続けていますが、貝原益軒は今の男性平均寿命よりも長生きをした人物なのです。
しかも時代は江戸時代です。
江戸時代の正確な平均寿命の統計は残念ながらありませんが、概ね40歳~50歳だといわれています。衛生面や医療だって現代のほうが格段に優れていることは、誰もが認めるところです。
そうした時代にあって、84歳という超長寿を全うした貝原益軒が多くの医学書や儒学書を読み、また当時一流と呼ばれた学者たちのもとで学び得た知識や技術を、彼自身の身体をつかった実体験を踏まえて書いたのが『養生訓』なのです。
そう言われると、この『養生訓』が、江戸の人たちにどれだけの説得力をもって受け入れられたかは想像に難くありませんね。きっと長寿のための超秘伝の書といった感じで飛ぶように売れたはずではないでしょうか。
だからこそ今でも名著として読み継がれていて、世界的にみてもこれだけ多くの人々に支持された「健康本」はないのではないでしょうか。
参考書籍
『養生訓』岩波文庫
『「日本人の名著」を読む』著・岬龍一郎
『中村天風 心を鍛える言葉』岬龍一郎
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